正しすぎる人の話。
未だに元彼を引きずっている。 別れてちょうど一年になる。 私にも新しい恋人ができたし、彼にも新しい恋人ができた。 彼も幸せそうにしているし、私も今を幸せだと感じている。 なのに、過去の記憶を掘り起こしては後悔に落ち込み。 知る必要のないことをわざわざ覗き見ては落ち込む。 自分が何をしたいのか分からず、何のために無駄でしかない気分の浮き沈みを繰り返しているのか分からず。 自分を制御するためにも、一度ちゃんと思考を整理して、理詰めで自分を落ち着かせる努力をしようと思った。 元彼は私の対極にいる人だと今も思う。 はっきり意見を言うこと。 人当たり良く、誰とでも楽しく話すこと。 広く学習意欲、向上心を持つこと。 挙げだせばきりがない程に、私の苦手なことをちゃんとやれる人だ。 自炊が苦手な私に、ちょっとしたことで料理がラクになったり、美味しくなったりすることを教えてくれたのも彼だった。 もともと私も好きだったお酒の楽しみ方を、何倍にも広げてくれたのも彼だった。 そんな彼が自分のことを好きになってくれて、私も彼を好きになって。 付き合ってみたものの。 今思えば、私が完全に子供でわがままで、彼はどこまでも大人だった。 「僕は君のことを前の彼氏よりも幸せにしなければいけない」 という彼の言葉を真に受けて、ことある毎に前の彼氏と比べてしまった。 他にももっと、今思えばもう思い出すのも嫌になる程に自分の未熟さを恥じることだらけの日々だった。 付き合っていた当時から、彼の正しさに圧倒されている部分はあった。 彼が私の選んだものなんかで喜んでくれるのか不安で、旅行のお土産ひとつ買うのに、これでもかというくらい時間がかかった。 自分の“美味しい”という感覚に自信をなくして、彼と食べると思うとお惣菜やちょっとしたおつまみさえ気軽に買えなくなった。 自分の趣味を恥じて、趣味に使う時間がなくなった。 デートに行きたい場所も気軽には言えなかった。 彼は全て正しくて、自分は全て間違っているような感覚に囚われていた気がする。 その分、感情面だけは自分が正しいと信じ切っていて、彼はどうして分かってくれないのか、彼はどうして私と同じように考えてくれないのか、と一方的な期待ばかり押し付けてし